今回の「中小企業向けIT障害対応:5分でできる基本フローと切り分け手順」シリーズでは、情シス担当者が現場で直面しやすい代表的なIT障害をテーマに、
「原因の考え方」「一次切り分けの手順」「よくある原因と対処のポイント」を実務目線で複数コラムに渡り解説していきます。
本コラムは、中小企業の情報システム担当者向けに、日々発生するITトラブルや障害に対して「まず何を確認すべきか」「どこまで切り分ければよいのか」を体系的に解説する『中小企業のためのIT障害対応 実践シリーズ』の第1回です。
中小企業がIT障害に直面した際、迅速かつ適切な対応は事業継続に不可欠です。本記事では、5分でできる基本的な対応フローと切り分け手順を解説します。これにより、IT専門家がいなくても、現場担当者が初期対応を行い、問題を最小限に抑えることが可能になります。
社内から突然寄せられる「ネットワークが繋がらない」「メールが送れない」「VPNに接続できない」といった問い合わせ。限られた人員で対応する中小企業の情シス担当にとって、迅速な一次切り分けは業務停止を防ぐための重要なスキルです。
目次
IT障害対応の重要性と中小企業の現状
なぜ中小企業はIT障害に弱いのか?
多くの中小企業がIT障害に弱い背景には、いくつかの要因が考えられます。まず、人材不足が挙げられます。大企業と比較して、IT専門の担当者を十分に確保することが難しい場合が多く、システム管理やセキュリティ対策がおろそかになりがちです。 また、ITに関する知識やスキルを持つ従業員が少ないため、障害発生時の初期対応が遅れることもあります。
次に、予算の制約も大きな要因です。中小企業では、IT投資に十分な予算を割けない場合が多く、最新のセキュリティソフトや高性能なサーバーを導入することが難しいことがあります。その結果、古いシステムを使い続けたり、脆弱性のあるソフトウェアを放置したりすることで、IT障害のリスクが高まってしまいます。
さらに、経営者のITに対する理解不足も影響している場合があります。ITを単なるコストとして捉え、戦略的な投資を行わない場合、 ITシステムの老朽化が進み、障害発生のリスクが高まります。IT障害は、業務停止やデータ損失など、企業経営に大きな影響を与える可能性があるため、 経営者はITの重要性を認識し、適切な投資を行う必要があります。
障害対応の遅れがもたらすリスク
IT障害への対応が遅れると、企業は様々なリスクに晒されます。 最も直接的なリスクは、業務の停止です。基幹システムが停止した場合、受注処理、生産管理、出荷業務など、企業の重要な業務がストップし、 大きな損失につながる可能性があります。例えば、製造業であれば、生産ラインの停止による納期遅延、小売業であれば、POSシステムの停止による販売機会の損失などが考えられます。
また、顧客からの信頼を失うリスクも無視できません。顧客情報が漏洩した場合、企業の信頼は大きく損なわれ、 顧客離れを引き起こす可能性があります。特に、個人情報を扱う企業にとっては、情報漏洩は致命的なダメージとなります。近年、個人情報保護法が強化されており、情報漏洩に対する企業の責任はますます重くなっています。
金銭的な損失も大きなリスクです。システム復旧費用、損害賠償金、風評被害による売上減少など、 IT障害によって発生する金銭的な損失は莫大になる可能性があります。特に、セキュリティインシデントが発生した場合、システムの復旧だけでなく、セキュリティ対策の強化、顧客への補償など、多額の費用が発生することがあります。
さらに、企業イメージの悪化も深刻なリスクです。IT障害が発生し、その対応が不適切であった場合、 企業の評判は大きく損なわれる可能性があります。SNSなどで悪い評判が広まると、企業イメージを回復することは非常に困難です。 そのため、IT障害発生時には、迅速かつ適切な対応を行い、顧客や社会への説明責任を果たすことが重要です。
5分でできる!IT障害対応の基本フロー
ステップ1:障害の特定と記録
IT障害が発生した場合、まず最初に行うべきことは、障害の内容を正確に特定し、記録することです。曖昧な情報や憶測に基づいて対応を進めてしまうと、 原因の特定が遅れたり、誤った処置を行ってしまう可能性があります。障害の内容を正確に把握するために、以下の点を意識しましょう。
まず、エラーメッセージを注意深く確認しましょう。エラーメッセージには、障害の原因や解決策に関するヒントが隠されている場合があります。エラーメッセージの内容を正確に記録し、インターネット検索などで調べてみることが有効です。 また、発生日時を正確に記録することも重要です。発生日時を記録することで、障害発生前後のシステムの状況を把握し、 原因の特定に役立てることができます。
次に、影響範囲を把握しましょう。どのシステム、どのユーザーに影響が出ているのかを把握することで、 障害の緊急度を判断し、対応の優先順位をつけることができます。例えば、基幹システムが停止している場合は、 他のシステムよりも優先的に対応する必要があります。
障害の内容、発生日時、影響範囲などを詳細に記録したら、記録した情報を関係者と共有しましょう。 情報共有によって、スムーズな連携が可能となり、 迅速な問題解決につながります。記録した情報は、後々の分析にも活用できるため、 詳細に記録しておくことが重要です。
ステップ2:一次切り分け
障害の特定と記録が終わったら、次は一次切り分けを行います。一次切り分けとは、障害の原因を特定するために、 様々な可能性を検証し、原因を絞り込む作業のことです。 一次切り分けを丁寧に行うことで、その後の復旧作業を効率的に進めることができます。
まず、ネットワークの接続状況を確認しましょう。 インターネットに接続できない場合は、LANケーブルが正しく接続されているか、 ルーターの電源が入っているかなどを確認します。Wi-Fi接続の場合は、SSIDやパスワードが正しいかを確認しましょう。
次に、サーバーの稼働状況を確認します。 サーバーがダウンしている場合は、サーバーの電源が入っているか、 ネットワークに接続されているかなどを確認します。 サーバーの管理画面にアクセスできる場合は、CPUやメモリの使用率、ディスクの空き容量などを確認しましょう。
ソフトウェアのバージョンを確認することも重要です。古いバージョンのソフトウェアを使用している場合、 セキュリティ上の脆弱性がある可能性があります。 最新バージョンにアップデートすることで、脆弱性を解消し、障害の発生を防ぐことができます。
これらの確認作業を通じて、障害の原因を特定し、 復旧作業に必要な情報を収集します。一次切り分けの結果は、詳細に記録し、 関係者と共有することで、スムーズな連携が可能となります。
ステップ3:復旧作業
一次切り分けで特定した原因に基づいて、復旧作業を行います。 復旧作業は、障害の種類や原因によって異なりますが、一般的には、以下の作業が考えられます。
まず、再起動を試してみましょう。 システムやソフトウェアが一時的に不安定になっている場合は、再起動することで問題が解決することがあります。 再起動は、最も簡単で効果的な復旧作業の一つです。 ただし、再起動によってデータが消失する可能性がある場合は、事前にバックアップを取っておきましょう。
次に、設定変更を行います。 設定が誤っている場合は、正しい設定に変更することで、 問題を解決することができます。例えば、ネットワークの設定、ソフトウェアの設定、 セキュリティの設定などを確認し、必要に応じて修正します。
バックアップからの復元も有効な手段です。システムやデータが破損した場合、 バックアップから復元することで、元の状態に戻すことができます。定期的にバックアップを取得しておくことが重要です。
これらの復旧作業を行う際は、 必ず作業内容を記録しておきましょう。記録を残すことで、後々の分析に役立ち、 再発防止策を検討する際に役立ちます。 また、復旧作業後には、必ず動作確認を行い、 問題が解決したことを確認しましょう。
ステップ4:エスカレーション
自力での復旧が難しいと判断した場合は、速やかに専門家(ITベンダー、ヘルプデスクなど)にエスカレーションします。エスカレーションとは、より専門的な知識やスキルを持つ担当者に、 問題解決を引き継ぐことです。 エスカレーションが遅れると、復旧が遅れ、業務への影響が拡大する可能性があります。 適切なタイミングでエスカレーションすることが重要です。
エスカレーションする際には、障害の内容、切り分け結果、試した復旧作業などを正確に伝えましょう。 伝える情報が不足していると、 専門家が原因を特定するのに時間がかかり、復旧が遅れる可能性があります。 できる限り詳細な情報を伝えるように心がけましょう。
また、専門家からの指示には、 的確に従いましょう。専門家は、豊富な知識と経験に基づいて、 最適な解決策を提示してくれます。 指示に従わずに、自己判断で作業を進めてしまうと、問題を悪化させてしまう可能性があります。
エスカレーション後も、 専門家と連携を取り、 復旧状況を常に把握しておきましょう。 復旧状況を把握することで、業務への影響を最小限に抑えることができます。 また、再発防止策を検討する際に役立ちます。
よくあるIT障害と切り分けのヒント
ネットワーク障害
ネットワーク障害は、企業活動に大きな影響を与える可能性があります。 ネットワークに接続できない場合、インターネットへのアクセス、メールの送受信、ファイル共有などができなくなり、 業務が停滞してしまいます。 ネットワーク障害が発生した場合は、以下の点を順番に確認してみましょう。
まず、LANケーブルの接続を確認します。 LANケーブルがルーターやパソコンに正しく接続されているかを確認します。ケーブルが抜けていたり、断線している場合は、 正常なケーブルに交換してください。
次に、ルーターの電源を確認します。ルーターの電源が入っているかを確認します。 ルーターの電源ランプが点灯していない場合は、 電源ケーブルが正しく接続されているかを確認し、電源を入れ直してください。
Wi-Fiの設定も確認しましょう。 Wi-Fiに接続できない場合は、 SSIDやパスワードが正しいかを確認します。また、Wi-Fiルーターとの距離が遠すぎると、 電波が弱くなり、接続が不安定になることがあります。Wi-Fiルーターの近くで接続を試してみてください。
これらの確認作業を行っても、 ネットワークに接続できない場合は、プロバイダーに問い合わせてみましょう。 プロバイダー側の設備に問題が発生している可能性があります。
サーバーダウン
サーバーダウンは、企業にとって深刻な事態です。サーバーが停止すると、Webサイトの閲覧、メールの送受信、 データベースへのアクセスなど、様々なサービスが利用できなくなり、 業務に大きな支障をきたします。サーバーダウンが発生した場合は、 以下の点を順番に確認してみましょう。
まず、サーバーの電源を確認します。 サーバーの電源が入っているかを確認します。サーバーの電源ランプが点灯していない場合は、 電源ケーブルが正しく接続されているかを確認し、電源を入れ直してください。
次に、ネットワークの接続状況を確認します。 サーバーがネットワークに接続されているかを確認します。LANケーブルが正しく接続されているか、 ネットワークの設定が正しいかなどを確認します。
CPUやメモリの使用率を確認することも重要です。CPUやメモリの使用率が異常に高い場合は、 サーバーに負荷がかかりすぎている可能性があります。 不要なプロセスを停止したり、サーバーのスペックを増強したりすることを検討してください。
ログファイルを確認することで、 原因を特定できる場合があります。ログファイルには、サーバーの動作状況やエラーメッセージなどが記録されています。 ログファイルを分析することで、 サーバーダウンの原因を特定し、適切な対策を講じることができます。
ソフトウェアの不具合
ソフトウェアの不具合は、業務効率を低下させるだけでなく、データの損失やセキュリティ上のリスクを引き起こす可能性があります。 ソフトウェアが正常に動作しない場合は、以下の点を順番に試してみましょう。
まず、再起動を試します。 ソフトウェアを再起動することで、一時的なエラーが解消され、正常に動作するようになることがあります。
次に、アップデートを試します。 古いバージョンのソフトウェアを使用している場合、不具合が修正されていない可能性があります。 最新バージョンにアップデートすることで、 不具合が解消されることがあります。
再インストールも有効な手段です。ソフトウェアが破損している場合は、 再インストールすることで、正常に動作するようになることがあります。再インストールする前に、必ずデータのバックアップを取っておきましょう。
エラーメッセージが表示される場合は、 インターネットで検索してみましょう。他のユーザーも同じエラーに遭遇している可能性があり、 解決策が見つかることがあります。 エラーメッセージを正確に記録し、検索エンジンで調べてみることが重要です。
障害対応後の再発防止策
定期的なバックアップの実施
定期的なバックアップは、データ消失のリスクを軽減するために不可欠です。 ITシステムは、常に障害のリスクにさらされています。ハードウェアの故障、ソフトウェアの不具合、 人的ミス、災害など、様々な要因によってデータが消失する可能性があります。 定期的にバックアップを取得しておくことで、万が一の事態が発生した場合でも、 迅速にデータを復旧し、業務を再開することができます。
バックアップ先は、社内だけでなく、クラウドストレージなども検討しましょう。 社内だけにバックアップを保存している場合、 火災や地震などの災害が発生すると、バックアップデータも同時に消失してしまう可能性があります。 クラウドストレージにバックアップを保存することで、災害によるデータ消失のリスクを軽減することができます。
バックアップの頻度は、 データの重要度や更新頻度に応じて決定しましょう。重要なデータや更新頻度の高いデータは、 毎日バックアップを取得することが望ましいです。 重要度の低いデータや更新頻度の低いデータは、週に1回程度のバックアップでも十分かもしれません。
バックアップデータは、 定期的にリストアテストを行い、 正常に復旧できることを確認しましょう。バックアップデータが破損している場合、 万が一の事態が発生しても、 データを復旧することができません。 定期的にリストアテストを行うことで、バックアップデータの信頼性を確認することができます。
セキュリティ対策の強化
セキュリティ対策を強化することで、 ウイルス感染や不正アクセスなどのリスクを軽減できます。近年、サイバー攻撃は高度化・巧妙化しており、 中小企業もその標的となっています。 セキュリティ対策を強化することは、企業を守るために不可欠です。
ファイアウォールは、 不正なアクセスを遮断する役割を果たします。 ファイアウォールを導入することで、外部からの不正なアクセスを防ぎ、 社内ネットワークを保護することができます。
ウイルス対策ソフトは、 ウイルス感染を検知し、駆除する役割を果たします。常に最新のウイルス定義ファイルを適用し、 定期的にスキャンを実施することで、ウイルス感染のリスクを軽減することができます。
侵入検知システム(IDS)/侵入防止システム(IPS)は、 不正な侵入を検知し、防御する役割を果たします。IDSは、不正な侵入を検知すると、 管理者に通知します。 IPSは、不正な侵入を検知すると、自動的に防御します。
これらのセキュリティ対策を導入するだけでなく、 従業員へのセキュリティ教育も重要です。 従業員がセキュリティ意識を高めることで、人的ミスによるセキュリティ事故を防ぐことができます。
ITシステムの運用体制の見直し
ITシステムの運用体制を見直すことで、障害発生時の対応を迅速化できます。 多くの中小企業では、ITシステムの運用を、 特定の担当者に任せきりにしている場合があります。担当者が不在の場合や、対応できない事態が発生した場合、 復旧が遅れてしまう可能性があります。 ITシステムの運用体制を見直すことで、障害発生時の対応を迅速化し、 業務への影響を最小限に抑えることができます。
ITベンダーとの連携を強化しましょう。ITベンダーは、ITシステムの専門家です。 ITベンダーと連携することで、 障害発生時のサポートを受けることができます。また、定期的なメンテナンスやセキュリティ対策の支援を受けることもできます。
ヘルプデスクの設置も有効です。ヘルプデスクは、従業員からのITに関する問い合わせに対応する窓口です。 ヘルプデスクを設置することで、 従業員は安心してITシステムを利用することができます。また、障害発生時の初期対応をヘルプデスクが行うことで、 迅速な問題解決につながります。
対応手順書を作成することも重要です。対応手順書には、障害発生時の対応手順、連絡先、 復旧方法などが記載されています。 対応手順書を作成することで、 誰でも同じように対応することができ、復旧作業の標準化を図ることができます。
まとめ:IT障害に強い企業へ
中小企業がIT障害に強い企業となるためには、 日々の心がけと継続的な対策が不可欠です。この記事で解説した基本フローと切り分け手順を参考に、 自社のIT環境を見直し、改善していくことが重要です。 IT障害は、いつ発生するか予測できません。しかし、事前の備えがあれば、 被害を最小限に抑えることができます。
IT人材の育成も重要な課題です。ITに関する知識やスキルを持つ従業員を育成することで、 障害発生時の初期対応能力を向上させることができます。 また、ITベンダーとの連携を強化することで、専門的な知識や技術を活用することができます。
IT投資は、単なるコストではなく、 将来への投資と捉えましょう。最新のセキュリティ対策や高性能なサーバーを導入することで、IT障害のリスクを軽減し、業務効率を向上させることができます。
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