本コラムは、中小企業の情報システム担当者向けに、日々発生するITトラブルや障害に対して「まず何を確認すべきか」「どこまで切り分ければよいのか」を体系的に解説する『中小企業のためのIT障害対応 実践シリーズ』の第9回です。
システム監視におけるアラートは、問題の早期発見に不可欠ですが、過剰なアラートはエンジニアの負担を増大させ、重要な問題を見逃す原因となります。本記事では、監視アラートのノイズを減らし、効率的な監視を実現するための設計について解説します。PingFederate、Datadog、Zabbixなどのツールを例に、具体的な対策を提案します。
目次
監視アラート地獄とは?
アラート疲れの現状
システム運用において、アラートは問題発生の初期段階で通知される重要な情報源です。しかし、設定が不適切な場合や、重要度の低いイベントまでアラートとして通知されると、エンジニアは大量のアラートに圧倒され、本当に重要なアラートを見過ごしてしまうことがあります。これをアラート疲れと呼びます。アラート疲れは、集中力の低下や判断力の鈍麻を招き、結果としてインシデント対応の遅延や見落としにつながる可能性があります。
さらに、慢性的なアラート疲れは、運用チーム全体の士気低下を引き起こし、離職率の増加にもつながりかねません。そのため、アラート疲れを放置せず、根本的な解決策を講じることが不可欠です。適切な監視設計と運用プロセスを構築し、アラートの質を高めることで、アラート疲れを軽減し、より効率的で健全なシステム運用を実現できます。
アラート疲れは、現代のシステム運用における深刻な問題であり、組織全体で取り組むべき課題と言えるでしょう。
アラートノイズの原因
アラートノイズの主な原因は、監視項目の過多、閾値設定の甘さ、そして重要度の低いイベントに対するアラート設定です。これらの要因が組み合わさることで、運用チームは日々大量の不要なアラートに対応せざるを得なくなり、結果として疲弊し、重要なインシデントへの対応が遅れる可能性があります。監視項目の過多は、システムの状態を網羅的に把握しようとするあまり、不要な情報まで収集してしまうことが原因です。
閾値設定の甘さは、システムの正常な範囲を逸脱していないにもかかわらず、アラートが発報されてしまう状況を生み出します。重要度の低いイベントに対するアラート設定は、些細な問題に対しても過剰に反応してしまうことを意味し、運用チームの注意を分散させてしまいます。これらの原因を特定し、適切に対処することで、アラートノイズを大幅に削減し、より効率的なシステム運用を実現できます。
アラート地獄がもたらす影響
アラート地獄は、エンジニアのモチベーション低下、インシデント対応の遅延、そして最終的にはシステム全体の信頼性低下につながります。また、不必要なアラート対応に時間を費やすことで、本来注力すべき業務へのリソースが圧迫され、ビジネスの成長を妨げる可能性もあります。エンジニアのモチベーション低下は、常に対応を強いられることで、達成感や成長を感じにくくなることが原因です。
インシデント対応の遅延は、重要なアラートがノイズに埋もれてしまい、発見が遅れることで、問題の深刻化を招きます。システム全体の信頼性低下は、インシデント対応の遅延や見落としが頻発することで、顧客からの信頼を失うことに繋がります。アラート地獄から脱却するためには、監視設計の見直しと運用プロセスの改善が不可欠です。これらの対策を講じることで、エンジニアの負担を軽減し、システム全体の安定稼働を実現できます。
監視設計を見直すためのステップ
監視対象の明確化と分類
まずは、監視対象を明確にし、その重要度に応じて分類します。例えば、PingFederateのような認証基盤、Datadogで監視するアプリケーション、Zabbixで監視するインフラなど、システム全体を俯瞰し、ビジネスインパクトの大きいものから優先的に監視対象とします。監視対象の明確化は、システムの構成要素を洗い出し、それぞれの役割と重要度を理解することから始まります。
認証基盤は、システム全体のセキュリティを支える重要な要素であり、可用性やセキュリティ侵害の監視が不可欠です。アプリケーションは、ビジネスロジックを実行する中核となる部分であり、パフォーマンスやエラー率の監視が重要です。インフラは、アプリケーションが動作する基盤であり、CPU使用率、メモリ使用量、ディスク空き容量などのリソース監視が必要です。これらの監視対象を明確化し、重要度に応じて分類することで、監視リソースを効率的に配分し、本当に重要な問題に集中できるようになります。
監視項目の取捨選択と優先順位付け
監視項目は必要最低限に絞り込み、優先順位をつけます。CPU使用率やディスク空き容量などの基本的な項目に加え、アプリケーション固有のメトリクスやログも監視対象とすることで、より詳細な状況把握が可能になります。監視項目の取捨選択は、収集する情報の量と質を最適化するために重要です。CPU使用率やディスク空き容量などの基本的な項目は、システム全体の健康状態を把握するために不可欠です。
アプリケーション固有のメトリクスは、アプリケーションのパフォーマンスやエラー状況を把握するために役立ちます。ログは、システム内で発生したイベントの記録であり、問題発生時の原因究明に役立ちます。これらの監視項目を優先順位付けすることで、アラートノイズを削減し、重要な問題に集中できます。例えば、アプリケーションのエラー率が急上昇した場合にのみアラートを発報するように設定することで、不要なアラートを削減できます。
閾値設定の最適化
アラートの閾値は、システムの正常な状態を逸脱した場合にのみ通知されるように適切に設定する必要があります。過去のデータやシステムの特性を考慮し、動的な閾値設定や異常検知アルゴリズムを導入することで、より正確なアラートを実現できます。閾値設定の最適化は、アラートの精度を高め、アラートノイズを削減するために不可欠です。過去のデータ分析に基づき、システムの正常な範囲を把握し、その範囲を逸脱した場合にのみアラートを発報するように設定します。
システムの特性を考慮し、時間帯や曜日によって閾値を変更することで、より正確なアラートを実現できます。動的な閾値設定は、過去のデータに基づいて自動的に閾値を調整する仕組みであり、システムの変動に対応できます。異常検知アルゴリズムは、過去のデータと比較して異常なパターンを検出し、アラートを発報する仕組みであり、予期せぬ問題の早期発見に役立ちます。これらの手法を組み合わせることで、アラートの精度を高め、アラートノイズを大幅に削減できます。
アラート通知の改善
通知方法の最適化
アラート通知は、メール、Slack、PagerDutyなど、適切なチャネルを選択し、重要度に応じて通知方法を使い分けることが重要です。また、通知内容には、問題の概要、影響範囲、推奨される対応策など、必要な情報を盛り込むことで、迅速な対応を支援します。通知方法の最適化は、アラートの可視性を高め、迅速な対応を促進するために重要です。メールは、重要度の低いアラートや、後で確認する必要があるアラートに適しています。
Slackは、チーム内での情報共有や、リアルタイムなコミュニケーションに適しています。PagerDutyは、緊急性の高いアラートや、夜間・休日などの対応が必要なアラートに適しています。通知内容には、問題の概要、影響範囲、推奨される対応策など、必要な情報を盛り込むことで、担当者が迅速に状況を把握し、適切な対応を取れるように支援します。また、アラートの重要度に応じて、通知の頻度やエスカレーションルールを調整することで、アラートの見落としを防ぎ、迅速な対応を可能にします。
エスカレーションポリシーの策定
アラートに対応できない場合や、特定の時間帯における対応者を明確にするために、エスカレーションポリシーを策定します。これにより、アラートが見過ごされるリスクを軽減し、迅速な対応を可能にします。エスカレーションポリシーの策定は、アラート対応の責任範囲を明確化し、対応漏れを防ぐために不可欠です。アラートに対応できない場合、例えば担当者が休暇中であったり、他の重要なタスクに対応中であったりする場合に、誰が代わりにアラートに対応するのかを明確にします。
特定の時間帯における対応者を明確にすることで、夜間や休日などの対応が手薄になる時間帯でも、アラートが見過ごされるリスクを軽減できます。エスカレーションポリシーには、エスカレーションの条件、エスカレーション先の担当者、エスカレーションの手順などを明記し、関係者全員が理解できるように周知する必要があります。また、エスカレーションポリシーは定期的に見直し、必要に応じて修正することで、常に最新の状態を維持します。
自動対応の導入
特定の条件を満たすアラートに対しては、自動的に対応する仕組みを導入することで、運用負荷を軽減できます。例えば、CPU使用率が一定値を超えた場合に、自動的にスケールアウトするなどの対策が考えられます。自動対応の導入は、運用チームの負担を軽減し、迅速な問題解決を可能にする有効な手段です。CPU使用率が一定値を超えた場合に、自動的にスケールアウトすることで、システムダウンを防ぎ、可用性を向上させることができます。
ディスク空き容量が少なくなった場合に、不要なファイルを自動的に削除することで、ディスク容量不足によるシステム停止を防ぐことができます。アプリケーションのエラー率が急上昇した場合に、自動的にアプリケーションを再起動することで、サービスの中断を最小限に抑えることができます。自動対応を導入する際には、誤作動による影響を考慮し、十分なテストを行う必要があります。また、自動対応のログを監視し、正常に動作していることを確認することが重要です。
運用プロセスの改善
インシデント管理プロセスの見直し
インシデントが発生した場合の対応手順を明確化し、迅速かつ効率的な対応を実現します。インシデント管理ツールを活用し、状況の把握、担当者の割り当て、進捗状況の追跡などを効率的に行うことが重要です。インシデント管理プロセスの見直しは、インシデント発生時の対応速度と品質を向上させるために不可欠です。対応手順を明確化することで、担当者が迷うことなく、迅速に適切な対応を取れるようにします。
インシデント管理ツールを活用することで、状況の把握、担当者の割り当て、進捗状況の追跡などを効率的に行うことができます。また、インシデント管理ツールは、過去のインシデント情報を蓄積し、ナレッジベースとして活用することもできます。インシデント管理プロセスは、定期的に見直し、改善を重ねることで、常に最新の状態を維持することが重要です。改善活動には、インシデント発生後のレビューや、担当者からのフィードバックなどを活用します。
ナレッジ共有の促進
過去のインシデント対応事例やノウハウを共有することで、同様の問題が発生した場合に迅速に対応できます。ナレッジベースを構築し、誰もがアクセスできるようにすることで、チーム全体のスキルアップにもつながります。ナレッジ共有の促進は、チーム全体のスキルアップと、インシデント対応の効率化に貢献します。過去のインシデント対応事例を共有することで、同様の問題が発生した場合に、迅速に解決策を見つけることができます。
ノウハウを共有することで、担当者のスキルアップを促進し、より高度な問題にも対応できるようになります。ナレッジベースを構築し、誰もがアクセスできるようにすることで、情報の検索性を高め、必要な情報に素早くアクセスできるようにします。ナレッジベースには、インシデント対応事例、ノウハウ、FAQ、トラブルシューティングガイドなどを掲載します。ナレッジ共有を促進するためには、定期的な勉強会や、情報共有会などを開催することも有効です。
定期的なレビューと改善
監視設計や運用プロセスは、定期的にレビューし、改善を重ねる必要があります。システムの変更やビジネスの変化に合わせて、監視項目や閾値を見直し、常に最適な状態を維持することが重要です。定期的なレビューと改善は、監視設計と運用プロセスを常に最適化し、変化するシステムやビジネスニーズに対応するために不可欠です。システムの変更やビジネスの変化に合わせて、監視項目や閾値を見直すことで、アラートの精度を維持し、アラートノイズを削減できます。
運用プロセスの見直しは、インシデント対応の効率化や、運用コストの削減に貢献します。レビューでは、過去のインシデント発生状況、アラートの発報状況、運用コストなどを分析し、改善点を見つけ出します。改善活動には、関係者全員が参加し、意見を出し合うことが重要です。レビューと改善のサイクルを繰り返すことで、監視設計と運用プロセスを継続的に改善し、常に最適な状態を維持することができます。
まとめ:アラート地獄からの脱却に向けて
アラートノイズを減らすための監視設計は、システム運用における重要な課題です。本記事で紹介したステップを参考に、自社のシステムに合わせた最適な監視設計を構築し、エンジニアの負担を軽減し、システム全体の信頼性を向上させましょう。監視対象の明確化、監視項目の取捨選択、閾値設定の最適化、アラート通知の改善、エスカレーションポリシーの策定、自動対応の導入、インシデント管理プロセスの見直し、ナレッジ共有の促進、定期的なレビューと改善など、様々な対策を組み合わせることで、アラート地獄から脱却することができます。
アラート地獄からの脱却は、エンジニアのモチベーション向上、インシデント対応の迅速化、システム全体の信頼性向上につながり、ビジネスの成長を支える基盤となります。本記事が、アラート地獄からの脱却を目指す皆様にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。今後も、システムの安定稼働と効率的な運用に向けて、継続的な改善に取り組んでいきましょう。
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