AD実践シリーズ⑦|「なんとなく管理」からの卒業!ADセキュリティ基本対策で情報資産を強固に

コラム

本コラムは、中小企業の現場で活用されるActive Directory(AD)について、実務で役立つ知識を段階的に学べる「AD実践シリーズ」の第7回です。
ActiveDirectory(AD)のセキュリティ対策、あなたは「なんとなく」で済ませていませんか?本記事では、ADセキュリティの基本対策を徹底解説。「なんとなく管理」から脱却し、情報資産を強固に守るための具体的なステップをご紹介します。MicrosoftEntra ID (旧 Azure AD)との連携についても触れ、現代のハイブリッドな環境に対応したセキュリティ対策を提案します。

目次

なぜADセキュリティ対策が重要なのか?

企業の情報資産を守るADの役割

ActiveDirectory(AD)は、現代の企業インフラにおいて、まさに心臓部とも言える存在です。
それは、従業員のアカウント情報、アクセス権限、そして組織内のデバイス管理など、多岐にわたる重要な機能を一元的に担っているからです。もしADが適切に保護されていなければ、企業全体の情報セキュリティが危機に瀕することになりかねません。
ADが侵害されると、攻撃者は企業内の機密情報にアクセスしたり、システムの動作を妨害したりすることが容易になります。これは、企業の評判を傷つけ、顧客の信頼を失うだけでなく、法的な責任を問われる事態にもつながりかねません。だからこそ、ADセキュリティ対策は、企業が情報資産を守る上で、最優先事項として取り組むべき課題なのです。

「なんとなく管理」が招くリスク

ActiveDirectoryのセキュリティ対策を「なんとなく」で行うことは、まるで無施錠の家に貴重品を置くようなものです。
設定の不備や脆弱性の見過ごしは、攻撃者にとって絶好の侵入ポイントとなり得ます。例えば、退職した従業員のアカウントが放置されたままになっていたり、不要な権限が誤って付与されていたりすると、それらが悪用されるリスクが高まります。
攻撃者は、これらのセキュリティホールを巧みに利用して内部に侵入し、機密情報にアクセスしたり、システムを破壊したりする可能性があります。このような事態を防ぐためには、ADの管理を徹底し、セキュリティ対策を継続的に見直すことが不可欠です。
「なんとなく」の管理から脱却し、積極的にセキュリティ対策を講じることで、企業は情報資産を安全に守ることができるのです。

Microsoft Entra IDとの連携の必要性

クラウドサービスの普及は、企業のIT環境を大きく変え、ActiveDirectoryの役割にも新たな側面をもたらしています。
従来のオンプレミス環境だけでなく、Microsoft Entra ID(旧 AzureAD)との連携を通じて、クラウド上のリソースも一元的に管理し、セキュリティポリシーを適用することが不可欠となっています。
Microsoft EntraIDは、クラウドベースのIDおよびアクセス管理サービスであり、オンプレミスのADと連携することで、ハイブリッド環境全体で一貫したセキュリティ対策を実現します。例えば、従業員がクラウド上のアプリケーションにアクセスする際にも、ADの認証情報を使用したり、多要素認証を適用したりすることができます。
このような連携により、企業はクラウド環境においても、セキュリティを確保し、コンプライアンス要件を満たすことができるのです。

ADセキュリティ基本対策:いますぐ見直すべきポイント

最小権限の原則の徹底

ActiveDirectoryのセキュリティを強化する上で、「最小権限の原則」は最も基本的かつ重要な対策の一つです。
これは、ユーザーが必要最小限の権限のみを持つように制限することで、万が一アカウントが侵害された場合でも、被害を最小限に抑えるという考え方です。特に、ドメイン管理者権限を持つアカウントは、AD環境全体に影響を及ぼすことができるため、厳重に管理する必要があります。
日常業務には管理者権限を使用せず、必要な場合にのみ一時的に権限を付与するなどの対策を講じることが重要です。また、不要な管理者アカウントは定期的に見直し、削除することで、攻撃対象となるアカウント数を減らすことができます。
最小権限の原則を徹底することで、内部からの不正行為や誤操作によるリスクも軽減し、AD環境全体のセキュリティレベルを向上させることが可能になります。

強力なパスワードポリシーの適用と多要素認証の導入

パスワードは、依然としてAD環境への主要な入り口の一つです。そのため、強力なパスワードポリシーを適用し、パスワードの強度を高めることが重要です。具体的には、パスワードの長さ、複雑さ、変更頻度などを制限するポリシーを設定し、ユーザーが推測されにくいパスワードを使用するように促します。
しかし、パスワードだけで完全にセキュリティを確保することは困難です。そこで、多要素認証(MFA)を導入することで、セキュリティをさらに強化することができます。
MFAは、パスワードに加えて、スマートフォンアプリや生体認証などの追加の認証要素を要求することで、パスワードが漏洩した場合でも不正アクセスを阻止することができます。MicrosoftAuthenticatorなどのMFAツールを活用し、AD環境全体のセキュリティを向上させましょう。

グループポリシー(GPO)の適切な設定

グループポリシー(GPO)は、ActiveDirectory環境全体の設定を一元的に管理するための強力なツールです。GPOを適切に設定することで、セキュリティ設定の標準化、ソフトウェアの配布、WindowsUpdateの管理などを効率的に行うことができます。
例えば、パスワードポリシー、アカウントロックアウトポリシー、監査ポリシーなどをGPOで設定することで、AD環境全体のセキュリティレベルを均一に保つことができます。また、GPOを使用して、セキュリティパッチの適用や不要なサービスの停止などを自動化することも可能です。
GPOの設定は、AD環境のセキュリティに大きな影響を与えるため、定期的に見直し、最新の状態に保つようにしましょう。セキュリティに関するGPOの設定を誤ると、セキュリティホールを作り出す可能性があるため、慎重に設定する必要があります。

セキュリティリスクを可視化する:定期的な監査の実施

AD監査の重要性

ActiveDirectory環境のセキュリティを維持するためには、定期的な監査が不可欠です。AD監査とは、AD環境内で発生したイベント(ユーザーのログイン、グループへの所属変更、ファイルへのアクセスなど)を記録し、分析するプロセスのことです。
監査ログを分析することで、不正アクセス、設定ミス、ポリシー違反などの異常を早期に発見し、対応することができます。例えば、通常とは異なる時間帯にログインしているユーザーや、機密ファイルにアクセスしているユーザーなどを検知することができます。
また、監査ログは、セキュリティインシデントが発生した場合の原因究明にも役立ちます。AD監査ツールを導入し、継続的な監視体制を構築することで、AD環境のセキュリティリスクを可視化し、迅速な対応を可能にすることができます。

イベントログの監視と分析

Windowsイベントログは、システムで発生したあらゆるイベントを記録する重要な情報源です。AD関連のイベント(ログインの成功/失敗、アカウントのロックアウト、グループポリシーの変更など)もイベントログに記録されます。
これらのイベントログを監視し、異常なイベントを検知することで、不正アクセスの兆候を早期に発見することができます。例えば、短時間に複数のログイン失敗が発生した場合や、通常とは異なるアカウントからのログインがあった場合などは、不正アクセスの可能性を疑う必要があります。
イベントログの監視は、手作業で行うことも可能ですが、効率的な監視体制を構築するためには、イベントログ監視ツールを活用することが推奨されます。これらのツールは、特定のイベントを自動的に検知し、アラートを通知する機能を備えています。

セキュリティ診断サービスの活用

自社でActiveDirectory環境のセキュリティ診断を行うことが難しい場合や、より専門的な視点からの評価が必要な場合は、セキュリティ診断サービスの活用を検討しましょう。
セキュリティ診断サービスは、専門のセキュリティエンジニアがAD環境の脆弱性を評価し、改善策を提案するサービスです。第三者の視点からAD環境を評価してもらうことで、自社では気づきにくいリスクを発見することができます。
セキュリティ診断サービスには、脆弱性診断、ペネトレーションテスト、設定レビューなど、さまざまな種類があります。自社のニーズに合った診断プランを選び、定期的に診断を実施することで、AD環境のセキュリティレベルを継続的に向上させることができます。

Active Directoryの脆弱性を突く攻撃とその対策

Kerberos認証の脆弱性(Golden Ticket/Silver Ticket)

Kerberos認証は、ActiveDirectory環境で広く利用されている認証プロトコルですが、Golden TicketやSilverTicketといった脆弱性が存在します。これらの脆弱性を悪用されると、攻撃者は管理者権限を窃取し、AD環境全体を掌握することが可能になります。
GoldenTicket攻撃は、Kerberos認証の中核となるKRBTGTアカウントを悪用するもので、攻撃者はKRBTGTアカウントの秘密鍵を入手することで、任意のKerberosチケットを作成することができます。
SilverTicket攻撃は、特定のサービス(ファイルサーバー、Webサーバーなど)の認証チケットを偽造するもので、攻撃者はそのサービスに対する管理者権限を窃取することができます。
これらの攻撃を防ぐためには、KRBTGTアカウントの定期的なローテーション、Pass-the-Hash攻撃対策、Kerberos認証の監視など、多層的なセキュリティ対策を講じる必要があります。

Pass-the-Hash攻撃と対策

Pass-the-Hash攻撃は、攻撃者がユーザーのパスワードハッシュを窃取し、それを利用して他のシステムに不正アクセスする手法です。パスワードハッシュは、パスワードそのものではなく、パスワードを暗号化したものであり、通常は安全に保管されていると考えられています。
しかし、攻撃者は、マルウェアや脆弱性を利用してパスワードハッシュを窃取し、そのハッシュを認証に使用することで、パスワードを知らなくてもシステムにログインすることができます。
この攻撃を防ぐためには、LAPS(LocalAdministrator PasswordSolution)を導入し、ローカル管理者アカウントのパスワードをランダム化することが有効です。また、CredentialGuardを有効にすることで、パスワードハッシュの窃取を困難にすることができます。
さらに、多要素認証(MFA)を導入することで、パスワードハッシュが窃取された場合でも、不正アクセスを阻止することができます。

ランサムウェア攻撃からの防御

ランサムウェア攻撃は、ActiveDirectory環境全体に大きな被害をもたらす可能性があります。ランサムウェアは、感染したシステム上のファイルを暗号化し、復号化のための身代金を要求するマルウェアです。
AD環境全体がランサムウェアに感染すると、業務システムが停止し、重要なデータが失われる可能性があります。ランサムウェア対策としては、最新のマルウェア対策ソフトを導入し、定義ファイルを常に最新の状態に保つことが重要です。
また、定期的なバックアップを実施し、万が一ランサムウェアに感染した場合でも、迅速に復旧できるように備えておきましょう。バックアップデータは、ランサムウェアに感染しないように、ネットワークから隔離された場所に保管することが推奨されます。
NUROBizなどの高速ネットワークを利用して、バックアップデータを安全な場所に保管することも有効です。従業員へのセキュリティ教育も重要であり、不審なメールやファイルを開かないように注意を促しましょう。

まとめ:「なんとなく管理」からの卒業-継続的なセキュリティ対策の重要性

セキュリティ教育の実施

ActiveDirectoryセキュリティ対策は、一度実施すれば終わりではありません。継続的なセキュリティ教育を実施し、従業員のセキュリティ意識を高めることが重要です。従業員は、企業のセキュリティ体制における最初の防衛線であり、彼らの行動がセキュリティリスクに直接影響します。
定期的な研修や模擬訓練などを実施し、従業員がセキュリティリスクを認識し、適切な行動を取れるようにしましょう。研修では、フィッシング詐欺、マルウェア感染、パスワード管理など、具体的な事例を取り上げ、従業員が実践的な知識を習得できるようにすることが重要です。
また、セキュリティポリシーを定期的に見直し、従業員に周知徹底することも重要です。セキュリティ教育は、AD環境のセキュリティを維持するための不可欠な要素であり、継続的な努力が必要です。

セキュリティポリシーの見直しと更新

ActiveDirectory環境は常に変化するため、セキュリティポリシーも定期的に見直し、更新する必要があります。新しい脅威や技術の進歩に対応するため、セキュリティポリシーを最新の状態に保ちましょう。
セキュリティポリシーの見直しでは、最新のセキュリティトレンドやベストプラクティスを考慮し、自社のAD環境に合わせた最適なポリシーを策定することが重要です。また、セキュリティポリシーは、従業員にとって理解しやすいように、明確かつ簡潔に記述する必要があります。
セキュリティポリシーの更新後には、従業員に周知徹底し、遵守状況を定期的に確認することが重要です。セキュリティポリシーは、AD環境のセキュリティを維持するための基盤であり、継続的な改善が必要です。

継続的な監視と改善

ActiveDirectory環境のセキュリティ状態を継続的に監視し、問題点を早期に発見し、改善していくことが重要です。セキュリティ監視ツールを活用し、異常なアクティビティを検知し、迅速に対応できるようにしましょう。
セキュリティ監視ツールは、AD環境内で発生するイベントをリアルタイムで監視し、異常なパターンやアクティビティを自動的に検知します。例えば、通常とは異なる時間帯にログインしているユーザーや、機密ファイルにアクセスしているユーザーなどを検知することができます。
セキュリティインシデントが発生した場合は、速やかに原因を究明し、再発防止策を講じることが重要です。インシデント対応計画を策定し、インシデント発生時の対応手順を明確にしておくことで、迅速かつ効果的な対応が可能になります。
継続的な監視と改善は、AD環境のセキュリティを維持するための不可欠な要素であり、常に意識しておく必要があります。

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