本コラムは『ゼロトラスト時代の企業セキュリティ対策 実践ガイド』の第8回です。
情報システム部門(情シス)が不在、または担当者が一人しかいない企業では、日々の運用やセキュリティ対策に限界が訪れがちです。
本記事では、情シス不在企業が直面する課題と、今すぐ取り組むべき具体的なセキュリティ対策について解説します。経営層を巻き込み、組織としてセキュリティを強化するためのロードマップを提示します。
目次
- 情シス不在企業が直面する「一人情シス」の現実
- 一人情シス体制に潜む5つの致命的なリスク
- 経営層を動かすための「現状可視化」と「対策計画」
- 一人情シス担当者の不安を解消するパートナー
- まとめ:あなたの「頑張り」を「組織の仕組み」へ
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情シス不在企業が直面する「一人情シス」の現実
従業員の「困った」に追われる日々と精神的孤立
情報システム担当者が一人しかいない、あるいは不在である企業では、日々発生する従業員からの問い合わせやPCトラブル対応に追われ、本来注力すべきセキュリティ対策やDX推進といった戦略的な業務に手が回らない状況に陥りがちです。
また、相談相手がいないことによる精神的な孤立感も、担当者の負担を増大させる要因となります。
日々の定型業務に追われるだけでなく、予期せぬトラブルシューティングや、従業員からの技術的な質問への対応など、担当者は常に「火消し役」に追われることになります。
このような状況が続くと、担当者は自身のスキルアップや、新しい技術動向のキャッチアップに時間を割くことができず、専門知識の陳腐化を招く恐れもあります。
さらに、業務の属人化が進むと、担当者が不在の場合の対応が困難になり、業務継続性の観点からもリスクが高まります。このような課題は、企業の規模に関わらず、情報システム部門の体制が脆弱な場合に共通して見られるものです。
「情シス=コストセンター」という社内理解の欠如
限られたリソースの中で、情シス担当者は日々の運用保守に奔走しています。
しかし、経営層や他部署からは、IT投資が「コスト」としてのみ認識され、その重要性や貢献が理解されにくいという課題に直面することがあります。
この認識のギャップが、必要な予算や人員の確保を困難にする原因となります。
IT部門は、単にPCやネットワークを維持管理するだけでなく、事業成長を支える基盤であり、DX推進による競争力強化に不可欠な存在です。
しかし、その価値が正しく評価されない場合、IT投資は後回しにされがちで、結果として技術革新の機会を逃してしまうことになります。
「なぜこれだけの費用がかかるのか」「その投資によってどのような効果が得られるのか」といった説明責任を果たすためには、IT部門の成果を定量的に示す必要がありますが、一人情シス体制ではそのための分析や資料作成にまで手が回らないのが実情です。
このような状況を打破するには、IT部門の活動をビジネス目標と紐づけ、その貢献度を具体的に示すことが求められます。
一人情シス体制に潜む5つの致命的なリスク
担当者不在による「属人化」と事業停止リスク
特定の担当者にしか分からない、あるいは対応できない「属人化」は、その担当者が不在になった場合に業務が停止してしまう重大なリスクをはらんでいます。
これは、BCP(事業継続計画)の観点からも看過できない問題です。
例えば、サーバーの管理、ネットワーク設定、基幹システムの運用など、重要なITインフラの知識や操作方法が特定の一人に集中している場合、その担当者が病気や休暇で一時的に業務を離れるだけでも、システム障害が発生した際の迅速な復旧が困難になります。
さらに、担当者が退職した場合、その知識やノウハウが引き継がれず、企業活動そのものが停止してしまうという最悪のシナリオも考えられます。
このような属人化は、情報共有の不足や、文書化されていない手順に依存していることが原因で発生します。
日々の業務に追われる中で、担当者間で知識を共有したり、手順を文書化したりする時間は確保しにくいのが現状ですが、事業継続のためには、これらの対策が不可欠となります。
また、セキュリティインシデント発生時の対応フローなども、担当者しか知らないという状況は、被害拡大のリスクを高めます。
後手に回るセキュリティ対策とサイバー攻撃への脆弱性
日々の運用業務に追われる中で、最新の脅威に対応するためのセキュリティ対策が後回しになりがちです。
ランサムウェア攻撃や標的型攻撃など、巧妙化するサイバー攻撃に対し、企業は常に脆弱な状態に置かれるリスクがあります。
例えば、SSL-VPNの古い設定や、パッチ未適用のシステムなどが狙われる可能性があります。
最新のマルウェアは日々進化しており、その対策も迅速に行う必要がありますが、一人情シス体制では、新たな脅威の情報を収集し、分析し、対策を講じるためのリソースが不足しがちです。
ファイアウォールやIDS/IPSの適切な設定・運用、エンドポイントセキュリティの導入・管理、従業員へのセキュリティ教育なども、継続的に実施する必要がありますが、これらは多くの時間と専門知識を必要とします。
また、インシデント発生時の初動対応や、フォレンジック調査、復旧作業なども、担当者の負担が大きくなります。
セキュリティ対策は、一度行えば終わりではなく、継続的な見直しと改善が不可欠であり、そのための体制構築が急務です。リスクアセスメントの実施や、脆弱性診断の定期的な実施も重要となります。
ブラックボックス化によるITコストの肥大化
IT資産や契約内容、運用状況などが可視化されていない「ブラックボックス化」は、無駄なコストの発生や、非効率なIT投資につながる可能性があります。
これにより、本来必要のない費用を払い続けてしまうリスクがあります。
例えば、利用されていないソフトウェアライセンスの更新、不要になったクラウドサービスの継続契約、重複する機能を持つツールの導入などが挙げられます。
これらの無駄なコストは、一つ一つは小さくても、積み重なると企業経営に大きな影響を与えます。
IT資産管理が適切に行われていないと、どのPCにどのソフトウェアがインストールされているのか、いつライセンスが切れるのかといった情報が把握できず、コンプライアンス違反のリスクも高まります。
また、クラウドサービスの利用状況を把握していないと、利用頻度の低いサービスに多額の費用を払い続けることになりかねません。
ITコストの最適化のためには、まず自社のIT資産全体を正確に把握し、利用状況を分析することが不可欠です。
その上で、不要な契約の見直しや、よりコスト効率の良い代替サービスの検討などを行う必要があります。IT資産管理ツールの導入や、定期的な棚卸しといった仕組みづくりが重要となります。
DX推進の停滞と競争力低下
新しい技術やツールの導入、業務プロセスのデジタル化(DX)は、企業の競争力を維持・向上させるために不可欠です。
しかし、情シス体制に余裕がない場合、これらの取り組みは停滞し、競合他社に遅れをとる原因となります。
AI活用の遅れや、ペーパーレス化が進まないといった課題が生じます。
DXは、単なるITツールの導入ではなく、ビジネスモデルの変革や、顧客体験の向上を目指すものです。
そのためには、経営戦略と連携し、業務プロセス全体を見直す必要があります。
しかし、一人情シス担当者は、日々の運用保守業務に追われ、DX推進のような新しい取り組みにまで手が回らないのが実情です。
また、DXを推進するためには、新しい技術に関する知識や、プロジェクトマネジメント能力が求められますが、担当者一人でこれらのスキルを全てカバーすることは困難です。
DXの推進は、企業の将来を左右する重要な課題であり、情シス体制の強化や、外部の専門家の活用など、積極的な対策が必要です。
例えば、AIチャットボットの導入による顧客対応の効率化や、RPAによる定型業務の自動化などが考えられます。これらの取り組みは、担当者の負担軽減にもつながります。
担当者の離職リスクと「採用困難」という壁
過度な負担や孤立感から担当者が離職した場合、後任の採用が困難であることが多く、情シス不在の問題はさらに深刻化します。
特に専門知識を持つ人材の獲得は、中小企業にとって大きな壁となります。
一人情シス担当者は、一人で多岐にわたる業務をこなす必要があり、その責任と負担は非常に大きいです。
このような状況が続くと、担当者は心身ともに疲弊し、離職を考えることがあります。
しかし、IT人材は慢性的に不足しており、特に中小企業が優秀なIT人材を採用することは容易ではありません。
採用できたとしても、その人材が自社に定着するとは限りません。
担当者が離職した場合、業務の属人化が進んでいると、引き継ぎがうまくいかず、業務が滞るリスクが高まります。
そのため、担当者の離職を防ぐための労働環境の整備や、キャリアパスの提示、そして万が一の離職に備えた体制づくりが重要となります。
外部のITサポートサービスや、ITアウトソーシングの活用は、このような採用・定着の課題を解決する有効な手段となります。
経営層を動かすための「現状可視化」と「対策計画」
Step1:業務内容の「守り」と「攻め」の分類
現在の情シス業務を、インフラ維持・セキュリティ対策などの「守りの業務」と、ITを活用した業務効率化やDX推進などの「攻めの業務」に分類します。
これにより、リソース配分の偏りや、本来注力すべき「攻め」の業務に手が回っていない現状を明確にできます。
「守りの業務」には、サーバー・ネットワークの監視・保守、ヘルプデスク対応、セキュリティパッチ適用、バックアップ管理などが含まれます。
一方、「攻めの業務」には、新しいツールの導入検討・導入支援、業務プロセスの改善提案、データ分析基盤の構築、社内システムのクラウド移行などが該当します。
この分類を行うことで、日々の業務が「守り」に偏りすぎている現状を経営層に具体的に示すことができます。
また、「攻めの業務」に十分な時間を割けていないことが、企業の成長機会の損失につながっている可能性も指摘できます。
この分析結果を基に、リソースの再配分や、外部リソースの活用といった具体的な対策の必要性を訴えることができます。
Step2:ヒヤリハット事例の収集とリスクの定量化
担当者一人で対応している際に発生した、あるいは発生しかけたインシデント(ヒヤリハット)を記録・収集します。
これらを基に、将来的な事業停止リスクや情報漏洩リスクを具体的な損失額として試算し、経営層に分かりやすく伝えます。
例えば、「担当者不在時にサーバーがダウンし、復旧に〇時間かかったため、〇〇円の機会損失が発生した」「マルウェア感染の疑いがあったが、迅速な対応により被害を免れたが、もし対応が遅れていたら〇〇円の損害賠償が発生していた可能性がある」といった事例が挙げられます。
これらのヒヤリハット事例は、日々の業務の中で発生する小さなインシデントや、担当者が抱える不安や懸念事項などを集めることで、より網羅的に収集できます。
リスクを定量化する際には、事業停止による逸失利益、情報漏洩による損害賠償、復旧にかかる費用などを具体的に算出し、経営層が理解しやすい形で提示することが重要です。
これにより、セキュリティ対策やITインフラへの投資が、単なるコストではなく、将来のリスクを回避し、事業継続性を確保するための「投資」であることを明確に示せます。
Step3:アウトソーシング(BPO)とSaaS活用の検討
ルーチンワークや定型的な運用業務は、アウトソーシングサービス(BPO)やSaaSツールを活用して外部に委託・自動化することを検討します。
これにより、担当者はより戦略的な業務や、高度なセキュリティ対策に集中できる時間を確保できます。
例えば、IT資産管理やPC管理、ヘルプデスク業務などを委託する選択肢があります。
これらの業務は、専門知識が必要であったり、時間のかかる作業であったりしますが、アウトソーシングすることで、コストを抑えつつ、業務品質を維持・向上させることが可能です。
SaaSツールを活用すれば、自社でシステムを構築・運用する手間が省け、迅速にサービスを導入できます。
例えば、グループウェア、チャットツール、プロジェクト管理ツールなどのSaaSは、多くの企業で導入が進んでいます。
これらのツールを効果的に活用することで、情報共有の促進や、業務効率の向上につながります。
アウトソーシングやSaaSの活用は、一人情シス担当者の負担を軽減するだけでなく、専門的な知見や最新技術を活用できるというメリットもあります。
自社のリソースだけでは対応が難しい業務を外部に委託することで、IT部門全体のパフォーマンス向上に貢献します。
Step4:外部コミュニティや専門家との連携強化
孤立しがちな一人情シス担当者にとって、外部のコミュニティに参加したり、セキュリティベンダーやコンサルタントなどの専門家と連携したりすることは、情報収集や課題解決の糸口となります。
M&Aなど、企業の成長段階に応じたセキュリティ対策の相談も重要です。
IT技術は日々進化しており、一人で全ての情報をキャッチアップすることは困難です。
外部のコミュニティでは、同じような課題を抱える担当者同士で情報交換をしたり、最新の技術動向やセキュリティ情報などを共有したりすることができます。
また、セキュリティベンダーやコンサルタントは、専門的な知識や経験を持っており、自社だけでは解決できない課題に対して、的確なアドバイスやソリューションを提供してくれます。
特に、企業の成長段階に応じたセキュリティ対策は、専門的な知識が不可欠です。
例えば、M&Aを検討している企業であれば、買収対象企業のセキュリティリスク評価や、統合後のシステム統合計画などについて、専門家のアドバイスを受けることが重要になります。
外部との連携を強化することで、担当者の孤立感を解消し、より効果的なIT戦略の立案・実行が可能になります。
一人情シス担当者の不安を解消するパートナー
情シス担当者が一人しかいない、あるいは不在の企業にとって、外部の専門家やサービスは強力な味方となります。
具体的なサービスとしては、IT資産管理・PC管理の専門サービス、セキュリティ診断を提供する「LANSCOPEプロフェッショナルサービス」、あるいは情シス業務全般を請け負う「情シスパートナー」のような包括的なソリューションの活用が考えられます。
これらのサービスを利用することで、企業は自社でIT人材を確保・育成する負担を軽減しつつ、高度なIT運用・管理体制を構築できます。
IT資産管理サービスでは、PCの棚卸し、ソフトウェアライセンス管理、BYOD端末管理などを効率的に行うことができます。
セキュリティ診断サービスは、潜在的な脆弱性を発見し、サイバー攻撃のリスクを低減するのに役立ちます。
「情シスパートナー」のようなサービスは、ヘルプデスク、サーバー・ネットワーク監視、セキュリティ対策、IT戦略立案まで、幅広い業務を包括的にサポートしてくれます。
これにより、担当者は本来集中すべきコア業務にリソースを集中させることができ、企業のIT活用能力を飛躍的に向上させることが期待できます。
自社の状況や予算に合わせて、最適なサービスを選択し、外部パートナーとの連携を深めていくことが、一人情シス体制の課題解決の鍵となります。
まとめ:あなたの「頑張り」を「組織の仕組み」へ
情シス不在・一人情シス体制は、企業の成長を阻害し、セキュリティリスクを高める要因となります。
本記事で解説した「現状可視化」「リスク定量化」「アウトソーシング活用」「外部連携」といったステップを踏み、担当者の個人的な頑張りに依存する体制から、組織として機能する仕組みへと変革していくことが、企業の持続的な成長と安全なIT環境の実現につながります。
日々の業務に追われる現状から一歩踏み出し、経営層への具体的な提案を行うことで、IT部門の価値向上と、より戦略的なIT活用を目指しましょう。
外部の専門家やサービスを賢く活用し、一人情シス担当者の負担を軽減し、専門性を補完することは、企業全体のITリテラシー向上と、変化に強い組織づくりにも貢献します。
この変革は、単なる業務改善にとどまらず、企業の競争力強化、そして未来への投資となるはずです。
まずは、できることから一歩ずつ、着実に進めていくことが重要です。
ゼロトラストは重要な考え方ですが、実際の導入には「何から始めるべきか分からない」「自社環境でどう実現するか難しい」といった課題も多くあります。
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